ぼ・く・ラボ Vol.4

イツモ型防災のすすめ

永田宏和
NPO法人プラス・アーツ
理事長
永田宏和

「たくさんの方が入居する賃貸住宅だからこそできる、地域とのかかわりなど、企業として防災活動に力を入れていきたいので、ご協力いただけませんか」。大東建託さんとのコラボは、そんな電話から始まりました。

様々な防災活動を展開するプラス・アーツですが、賃貸住宅に限った防災活動はあまり経験がなく、コラボを通し、私自身も多くのことが学べて、今後の活動への布石となるのではと、ご一緒させていただくことになりました。いま私たちは、様々な被災体験者の方から教わった教訓をもとに、「もしも」に備えるのではなく、普段から意識を持って暮らす、「イツモ型防災」を提案しているのですが、地域や居住者間の交流が少ないといわれる賃貸住宅こそ、実はそんな視点が大切かもしれません。

“自分たちの防災”が始まっている

阪神淡路大震災以降、日本は東日本大震災、熊本地震などを経験し、今年も大阪北部地震、西日本豪雨に見舞われました。そんな状況の中で多くの人の意識が変わってきていると感じます。たとえば私たちが力を入れている子ども向け防災教育プログラム「イザ!カエルキャラバン!」は、全国で450回以上の実施を数えますが、広がりの過程で地域独自の形に変わる“ローカライズ”という現象が生まれています。たとえば「イザ!カエルキャラバン!」ではキャラクターはカエルですが、沖縄では家の守り神とされる“ヤモリ”に変りました。もともとは地震対策でしたが、風水害の多い地域では風水害対策の防災訓練プログラムが生まれたりと、地域に合わせてアレンジされるようになっているのです。つまりそれだけ、自分たちの問題として考えているということで、それこそが「イツモ型防災」の第一歩なのです。

オリジナルのカエルキャラバンと沖縄版「ヤールーキャラバン」。キャラクターがカエルからヤモリにローカライズされています。

“場づくり”から“人づくり”へ

また私たちは、そうした高まる防災熱に応えるため、暮らしの防災講座「地震ITSUMO(いつも)講座」展開しています。日々の暮らしの中で家族が知っておくべき防災知識や技を解説する講座ですが、年々オファーが増えています。主催スタイルも、自治体が市民向けに、PTAや町内会が住民向けに、企業が社員向けにと様々ですが、実はこの講座でもローカライズが起きています。最初は私たちが講師を務めますが、以前に聴講した人が次の講師を務め、どんどん講師をする人が増えていき“自分たちの防災講座”化していくのです。人から人へ伝えるということで防災意識が広がっていくというのは、すごいことだと思います。

埼玉県イツモ防災事業 講師養成研修
「埼玉県イツモ防災事業 講師養成研修」

私たちもその可能性を感じ、防災教育の担い手づくりにも注力しています。熱い思いを持って継続的に防災教育の場づくりができる担い手を増やしていくことで、防災教育を持続し、地域に定着できるからです。すでに自治体との防災啓発事業では、住民から有志を集めて防災講座の講師になるためのトレーニングを実施しており、多くの地域で住民講師が誕生し、防災講座の自主開催が始まっています。こうした取り組みが自治体だけでなく、大東建託さんのような企業にも広がり、防災教育の輪がどんどん広がっていくことを願って活動に力を注いでいきたいと思います。

毎日の暮らし方が防災になる

イツモ型防災は、普段の暮らしが基本になります。アパートやマンションにお住いの方は、入居者間の交流や地域とのつながりが持ちにくいかもしれませんが、まずは気軽に地域の防災イベントにも参加してみてください。最後に、災害にあわれた方のインタビューの中で私がとても印象に残った教訓をご紹介します。

――近所づきあいが大切。普段かけあう“あいさつ”も防災でした――

地震ITSUMO講座 大東建託グループAID ワークショップ in 仙台

NPO法人プラス・アーツ理事長の永田宏和氏を講師に迎え、一般社団法人防災ガールの協力のもと、2018年7月に、大東建託仙台南支店内で「地震ITSUMO講座 大東建託グループ ワークショップ in 仙台」を開催しました。
防災型賃貸住宅の開発、日常(いつも)から災害時(もしも)に備えるべきことや体制づくりなど、大東建託グループがめざす防災活動の基盤強化を目指し、賃貸住宅のオーナー様にも参加いただき行われました。

〜課題整理ワークショップ〜 「一番怖いのは、“自分は大丈夫”と
油断していることなんです」

という永田氏の言葉から始まったワークショップ。いきなり会場が暗転し、正面のスクリーンにグラグラと揺れた部屋の写真が。食器棚が倒れ、ガラスが割れ、物が散乱する部屋…「午後3時、地震が発生!」永田氏の声に続き、スライドが展開。電気もガスも、水道も止まった…携帯電話は繋がらない…家族は大丈夫?…お腹が空いた…トイレは?…夜はまっくら…あ、余震だ!…永田氏のナビゲーションに合わせ、参加者は状況を想像しながら、自宅ではどんな備えをしていたか、何が足りないかなどを一人ひとり書き出します。その後、グループごとにディスカッションし、まとめて発表、参加者全員で課題点や不安点を考えました。

それぞれのメモをもとに模造紙と付箋でみんなの意見を整理し発表

〜快適避難生活とおすすめ非常食の試食体験〜 新聞紙が食器に!懐中電灯はNG!?
現場で培われた知恵に驚き。

「被災時に不安なのは食事なんです」と言う永田氏。なるほど、温かくて美味しいものは、不安な気持ちを和らげてくれます。グループディスカッションの後は、参加者から楽しみにしていたという声もあった被災食の試食タイム。「こんなのもあるんだ」とみなさん興味津々です。

当日試食した被災食(一部)
商品提供(左から):石井食品(株)様、尾西食品(株)様、(株)そごう・西武様

もちろん食べるだけではなく、まずは永田氏のレクチャーに合わせて新聞紙で食器作り。「できた人は周りの人を見てあげてくださいね。被災時の基本は助け合いですから」と永田氏。ワイワイ楽しみながら作った食器は、新聞紙製とは思なえない頑丈さがあり、器としても十分なもの。皆さん満足げでした。さらに永田氏直伝の極意は、できた食器を段ボールの切れ端に貼り付けること。「こうすると温かいスープやお味噌汁を入れても持てるんです。これ、被災現場で教わりました」。

温かい食事は何よりの活力の元。被災食のイメージが変わった試食タイム
※画像内の商品は、試食した商品となります

食器づくりが終わると、「もっと被災時を体験してください」と照明を消灯。ヘッドライトを着け、LEDランタンを点灯します。「防災グッズの筆頭に懐中電灯があげられるんですが、実は現場では役に立たないんです。だって懐中電灯を持ってたら食事できないでしょ?物も運べないですし。頼りになるのは両手が使えるヘッドライトなんです」という説明に、納得の暗闇食事体験でした。

LEDランタン未経験者も多く、その明るさに驚きの声も

好きなものを被災食に。
ローリングストックの考え方を伝授。

試食後、永田氏から新しい備蓄法「ローリングストック法」の紹介が。普段の暮らしの中でストックを食べながら備えるという方法です(下記イラスト参照)。このメリットは、スーパーなどで売っているレトルト食品や今回試食した「やさい」のとれるフリーズドライ食品などをそのまま非常食にするということ。「好きなメニュー、普段食べているものを食べるので、被災時の食のストレスを軽減します。私の家では家族が大好きな“お取り寄せのカレー”をストックしており、この日が実は楽しみになっています。その日は料理をしなくてもいいですし」と永田氏。

賞味期限1年のものでOK!
美味しい非常食のバリエーションが増えます。「やさい」や「温かいもの」を摂ることがとても大切です

〜地震ITSUMO講座〜 えっ、段ボール箱で家具の転倒防止?
現場発の使い方に、目からウロコ!

イベントの最後は、永田氏が神戸や東北、熊本での支援活動を通して得た知恵やノウハウが満載の「防災講座」が始まりました。現場の声を反映した使い方や必要性はとても納得のいくことばかり。段ボール箱をタンスと天井の間に置くだけでL型金具と同等の効果がある、突っ張り棒は家具の壁側に取り付けるなど、知らなかったことや誤解していたことがたくさん紹介されました。防災グッズ紹介では、簡易トイレの使い方をはじめビニール袋の有効な使い方や口腔ケアシートの重要性など、まさに生きた知恵を伝授していただきました。

タンスの転倒防止に一番効果的なのは突っ張り棒と転倒防止板の組み合わせ、食器棚は食器をしまう棚に粘着シートを敷く、窓ガラスの近くに物を置かないなど、今日からできる工夫もいろいろ教わりました
プラス・アーツ推奨の防災グッズ。通販サイトAmazonでも購入可能

今回は仙台で行われたということで、参加した社員やオーナー様の中にも被災体験者が多くいましたが、それでも参加者全員がこうした“体験型”のワークショップを繰り返し行うことは、薄れかけていた被災時の教訓を思い起こし、また毎日の暮らしの中での防災意識を維持していく上でも非常に重要であることを実感。大東建託も、今後も地域との関係を深めた防災活動に鋭意取り組んでいくことを改めて決意するイベントとなりました。